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執筆者の写真永田 健

鳥獣保護管理法と動物愛護管理法

先日、クマがスーパーマーケットに入り込んでしまったことがニュースになりました。クマの他に、シカやカラスといった野生動物も人間社会に頻繁に被害を引き起こし、ニュースとして取り上げられます。このような鳥獣害に対して、件の野生動物を捕獲するという手段が執られることがあり、その際のルールを定めているのが「鳥獣保護管理法」です。




この「鳥獣保護管理法」の正式名称は「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」という長いものです。狩猟に関するルールを定めていることから「狩猟法」と呼ばれることもありますし、「管理」を省略して「鳥獣保護法」と呼ばれることもあります。しかし、野生動物を単に保護するだけで無く、増えすぎてしまった場合には適切な個体数にまで減らす必要があるということを強調する意味で、「管理」が法律の名称に加えられた経緯があることから、専門家の間では「鳥獣保護管理法」と呼称することが多いと思います。「鳥獣保護管理法」の対象となる生物は第2条1項において「鳥類又は哺乳類に属する野生動物」と明確に定められています。また、狩猟の対象となる種については、狩猟鳥獣として列記されています。イノシシやニホンジカが狩猟鳥獣というのは想像がつくかと思いますが、ミヤマガラス・ハシブトガラス・ハシボソガラスといったカラス類に加え、ノイヌやノネコも狩猟鳥獣に入っています。


この「鳥獣保護管理法」に似た名前の法律に「動物愛護管理法」があります。こちらの正式名称は「動物の愛護及び管理に関する法律」です。当初の名称は「動物の保護及び管理に関する法律」だったこともあり、「鳥獣保護管理法」と混乱しないように注意が必要です。環境省の資料「対象動物種の範囲」にまとまっているように、動物一般を対象とする条文から、犬・猫のみを対象とする条文までありますが、基本的には人の管理下にある動物を対象としています。


難しいのはイヌ・ネコの扱いです。飼育されていれば明確に「動物愛護管理法」の対象ですが、山野に生息して人間から自立して生活していれば「鳥獣保護管理法」の対象です。では、逃げ出したり無責任に放棄されたペットのイヌ・ネコである、野良犬・野良猫はノイヌ・ノネコなのでしょうか?これらは法律的な分類であって、遺伝的には全く差がありません。


通常、このようなグレーゾーンは裁判所による司法判断がなされることで徐々に白黒がはっきりしていきます。逆に言えば、司法判断が下るまでは不確定のままと言うこともできます。


ここで、この件について詳しく答えられる専門家は誰なのかという観点で考えてみるのも面白いかと思います。当然、法律に関することですから、法学の研究者の意見は大事でしょう。法律は、その国の国民の価値観が反映されたものと考えれば、日本における動物観を扱う人文系の研究者にも意見を聞きたい気がします。「鳥獣保護管理法」が定められた目的を考えれば、生物多様性の保全においてノイヌ・ノネコが与える影響についての科学的知見は重要でしょう。また、ノイヌ・ノネコが媒介する感染症についても専門家から話を聞く必要がありそうです。他にも、意見を聞くべき専門家は、まだまだいそうです。ただし、これらの専門家は、それぞれの専門分野の観点から問題を分析し情報を与えてはくれますが、最終的な答は出してくれません。


このような場面で、専門家と一般市民の間のコミュニケーションを促す役割、異なる分野の専門家の間でのコミュニケーションを促す役割、そもそも、問題に対して知見を持ちうる様々な分野の専門家を選び出すことで、多様な観点から問題に光を当てる役割として、サイエンスコミュニケーターが役に立てることでしょう。

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