日本人の科学者への信頼度は相対的に低い?
- Pro SciBaco
- 2月20日
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68ヶ国にも及ぶ国際調査で、日本人の科学者における信頼度は68カ国中59位という結果が公表されました。本調査は新型コロナウイルス感染症流行後に実施された国際調査で、2025年1月にアメリカの研究雑誌、nature human behaviourに掲載されました。

「68カ国における科学者とその社会における役割に対する信頼」の調査結果
本調査は以下の研究論文で発表されました。
Cologna, V., Mede, N.G., Berger, S. et al. Trust in scientists and their role in society across 68 countries. Nat Hum Behav (2025). https://doi.org/10.1038/s41562-024-02090-5
本調査によると、5件法によって科学者への信頼度が調査されています。5が非常に高いという回答で、最も信頼が高いエジプトやインドは4.30や4.26といった高いスコアになっています。一方、56位の日本はというと3.37で高くも低くもない中立な意見よりやや高い傾向になっています。68ヶ国の平均は3.62でおおむね信頼されていると考えられるでしょう。
本調査は信頼の背景にある属性との関連を調査しています。男性、高齢者、高学歴、高収入、都市部在住の人が科学者を信頼する傾向があることがわかりました。一方、これまで右派の政治志向と科学の信頼は負の相関があるとされていましたが、北米と欧州以外の国ではそのような傾向が見られないことも明らかになりました。科学と社会の研究は、一般的に欧米のデータが用いられる場合が多いですが、今回の調査でそれ以外の国による政治志向と科学者への信頼の関係に新たな視点が見つかったことは重要です。
一方、面白い観点としては社会階層を支持する人ほど、科学者を信頼する可能性が低いことがわかりました。科学活動は旧来の階層を解体するきっかけとなると懸念しているのかもしれないと、調査チームは考察しています。また所得格差が大きいほど科学者への信頼度が高いという不思議な結果も出ました。調査をしたチームはこれらを詳細に見ていくと、汚職が萬栄しているという自覚があり政府への信頼が低い国ほど、科学に対して期待を寄せる意味でも信頼度が高くなるという傾向を見出しました。
また、サイエンスコミュニケーションの必要性は全体の80%以上が肯定的に回答するとなっており、サイエンスコミュニケーションは世界的に見ても重要視されていることがわかります(図1)。

また本調査ではサイエンスコミュニケーションに関係する結果も書かれています。例えば、科学よりも大衆の価値観を優先させる態度(科学に関するポピュリスト的態度)は科学者への信頼の低さに関連している結果が出ています。ポピュリズムは科学的情報の受容の障壁になるという課題はこれまでも検討されていましたが、本研究でもその傾向が明らかになりました。
ただGDPやGDP当たりの教育支出、PISAの科学リテラシー得点の高さ、学術的自由度などは科学者への信頼に有意な関係はないという結果になっています。
本当に日本人の科学者への信頼度は低いの?
相対的に低いというだけで、日本では科学者への信頼の危機、つまり科学者を信頼できない傾向が生まれているのでしょうか。文部科学省 科学技術・学術政策研究所が発表した「科学技術に関する国民意識調査 -科学技術とウェルビーイングとの関係-」によると、科学者への信頼度は60%で、これはここ数年変化していません。ただ、日本では東日本大震災とそれに伴う福島第一原子力発電所の事故によって、一度半分以下まで信頼度が落ち、その後回復したという経緯を持ちます。2010年代には8割まで回復し、コロナまで迄は7割強の信頼度でした。一方、コロナ渦を経て、徐々に落ち込みを見せているため本傾向は注視していく必要があります。
一方、3Mが継続して調査している「State of Science Index Survey」では、日本における科学への信頼は2020年のパンデミック前調査のときよりも高くなっているという結果が出ています(84% 日本 vs 91% グローバル)。ただ聞き方が、科学者の話をもっと聞きたいと思うかという質問になっているため、本当の意味での信頼とは異なるのかもしれません。
調査場所、対象、そして聞き方によって信頼度への回答は変わります。今回の調査結果は、日本におけるサイエンスコミュニケーションの必要性を理解するためには重要ですが、すぐさま市民と科学者との間に信頼の危機があると断定するもの危険でしょう。
一方で、今回の調査では、科学者への信頼が高まる背景には国レベルの違いがあるということがわかりました。今回の結果を踏まえて、日本における日本らしいサイエンスコミュニケーションとは、ということを検討していく必要があります。
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