分からないことを伝える
- 永田 健
- 6 日前
- 読了時間: 3分
更新日:5 日前
4月に入り札幌も春らしくなりました。道ばたには、蕗の薹が顔を出しています。この辺の蕗の薹は、これまでスーパーで見かけていた蕗の薹よりも大きく、握りこぶしくらいのサイズです。ネットで調べてみたところ、フキの亜種のアキタブキ(エゾブキ、オオブキ)のようです。

ところで、私事ですが、先日から眼の調子が悪く、眼科で診察して貰ったところ、中心性漿液性脈絡網膜症という、なんとも長ったらしい名前の病気と判明しました。医師からは、この病気について原因は分かっていないが、一応、ストレスが原因とされていると説明を受けました。その医師曰く、原因が良く分からないときに、とりあえずストレスということにして、生活習慣を改善し、ストレスを減らすように伝えるという、ある種の方便のようです。
これに似た話として、動物の行動における遊びがあります。私も観察したことがありますが、ある地域ではカラスが電線に逆さまになってぶら下がり、ブランコのように揺れるという行動を見せることがあります。おそらく、動物行動の専門家は、遊びという言葉で説明するかと思います。カラスの行動の意味が分からないので、とりあえず遊びということで説明しておくという、これも、ある種の方便です。今後、ぶら下がり行動の意図が判明したときには、しれっと遊びの説明は撤回することになります。
嘘も方便という言葉のように、状況によっては、ある種の嘘が必要なこともあるでしょう。患者さんによっては、原因不明と言われると、不安になって、それこそ大きな心理的ストレスになってしまうかもしれません。一方で、特にストレスとして思い当たる節が無い人にとっては、かえって、これ以上、どうやってストレスを減らせば良いのだと困惑してしまうかもしれませんし、それが医療に対する不信感に繋がる可能性もあります。
科学論文の世界では、信頼区間やエラーバーといった形で、データの不確実性についても明示する作法があります。専門家は発言を求められた際にも、様々な可能性を言及するに留め、言い切らないことが多いです。それに対し、テレビなどのマスメディアは、煮え切らない回答を嫌い、断定的な発言をしたように切り取って伝えてしまうので、よくトラブルになります。
コミュニケーションの観点から言えば、断定的な発言の方が伝わるのかもしれませんが、サイエンスを重視するのであれば、不確実性をありのまま伝えることが重要です。サイエンスコミュニケーションとしては、安易に分かりやすさのみに流されず、分からないことについては、分からなさを伝えるよう心がけたいと考えています。
ちなみに、私がカラスの良く分からない行動について聞かれた際には、まず、遊びとして説明した上で、遊びというのは、専門家の理解の限界を示しているのだということを付け加えるようにしています。
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