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ミュージアムから見る社会 ~企業ミュージアム~

1961年に開館し場所を変えながらも長く親しまれてきた企業ミュージアムの草分け的存在である東芝未来科学館(神奈川県川崎市)が2024年6月29日をもって一般向けの公開を終了すると発表しました。

企業ミュージアムの役割について東芝未来科学館を例に解説しながら、ミュージアムという視点から社会を見てみると何がわかるのか考えます。



東芝未来科学館の前身である東芝科学館は1961年に東芝創業85周年を記念して開館しました。さらに遡ると1927年に開校した電灯会社や販売店に照明や電気器具の配線を教える施設である松田照明学校に端を発しているといいます。松田照明学校は一般の人も予約見学でき、案内者による説明もあったと言われており、その系譜と役割が形を変えながらもこれまで受け継がれてきたことがうかがえます。


東芝未来科学館を運営する株式会社東芝は、主力事業を一般消費者向けであるBtoCから企業向けとなるBtoBに移行にしていくなかで東芝未来科学館の役割の見直しを行い、一般向けの公開を終了、今後は取引先や顧客向けに展開していくということです。


東芝未来科学館 一般公開終了のお知らせ 当館は、1961年11月に東芝小向地区に「東芝科学館」として開設、2014年1月に現所在地に移転し「東芝未来科学館」への名称変更を経ながら、60年以上にわたり、科学技術のすごさ・おもしろさを楽しく伝え、東芝の最先端技術が生み出す豊かな社会をPRしてまいりました。  今般、東芝の事業ポートフォリオがBtoCからBtoBへ移行していることに伴い当館の役割を見直すこととし、当館は2024年6月29日(土)をもって、一般のお客様向けの公開を終了することとなりましたので、ご連絡いたします。 東芝未来科学館ホームページ(https://toshiba-mirai-kagakukan.jp/)より引用  

一般消費者向け事業を縮小していくにあたり、施設の一般向け公開も終了に至ったとのことで、東芝は2023年3月に国内投資ファンドによる買収提案を受け入れており、現在経営再建の最中であることも影響していると考えられます。



科学技術の普及活動にも大きく貢献


企業博物館を分類すると以下の5つに大きく分けることができます。

  1. 史料館…創業者の創業理念、史料、企業の社会貢献について主に展示

  2. 資料館…企業の製品や関連業界の産業製品などをコレクション、展示

  3. 技術館…企業が持つ技術的基盤を展示、その特徴や使い方を体験できる

  4. 啓蒙館…企業理念や製品、社会貢献、関連業界を含めた展示を広く展開

  5. 産業館…食品会社などによる工場見学などができる施設

このように基本的には企業のことがよくわかることを目的にして設置、自社製品のPRの場としても活用されてきましたが、近年はCSR(企業の社会的責任)の文脈でもその目的が語られるようになってきました。

東芝未来科学館はこの分類では技術館に相当し、東芝の製品の歴史から最新技術まで体験を通して知ることができ、一般的な科学技術についても広く学ぶことができる施設になっています。


科学技術の普及活動にも大きく貢献


Google Scholarで「東芝_科学館」と検索してみるとおよそ4,800件の文献がヒットします。内容は企業博物館に関するものから、所蔵資料について、科学教室についてなど幅広く、特に館内で行われてきた科学教室や教育普及活動についての報告が多く見られました。

夏休みなどの子どもの長期休暇には多くのイベントが組まれており、8月の科学イベントの開催数68回という驚くべきデータもありました。地域の学校や教育委員会、NPO法人等と連携しながら多様なジャンル、対象、手法の普及活動が行われており、地域貢献という意味でも大きな役割を持っていることが伺われます。



ミュージアムから社会を見る


公的に運営されているミュージアムよりも母体となる企業の業績や考え方によって規模が縮小されたり、閉館に至ったりすることもある企業ミュージアム。

コロナ禍においては運営母体を問わず多くのミュージアムが休館などの措置、対応に追われましたが、その中でも少しでも子どもたちに科学を身近に感じてもらえるよう動画コンテンツやSNSでの発信などあらゆる方法で努力をしてきました。しかしながら、やはり社会の変化に抗えないこともあるようです。

それでも、それぞれの時代の企業ミュージアムに触れ、その企業の理念や時代的背景を感じることは科学史を考えるうえでも重要だと思います。



参考文献:

博物館教育論-新しい博物館教育を描き出す- 小笠原喜康、並木美砂子、矢島國雄 編 ぎょうせい

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